「これが江戸川乱歩の使っていたランプです。このランプの光で怪人二十面相は書かれたのです」と詐欺師は言った。「どうです、お安くしておきますよ。買いませんか? 今ならたったの一千万円です」
「嘘つけ。昭和11年なら、既に電灯が普及しているだろう」
「あなたは何も分かっておられない」
「どういう意味だ」
「これは灯りを得るためのランプではないのです」
「じゃあ何をするためのランプだ」
「ランプの光を見ると、乱歩は自分が怪人二十面相の変装だった事実を思い出すのです。さあ、あなたもランプの光を見て自分の正体を思い出すのです」
(遠野秋彦・作 ©2023 TOHNO, Akihiko)